2020年2月8日土曜日

明日2月9日から こまつ座公演「イヌの仇討」の石川県・富山県での公演が始まります。見どころなどをまとめてみました。通説をくつがえす,超密室ドラマといった作品のようですね。楽しみです。

金沢市民劇場は今年創立55周年を迎えます。その記念例会第1弾が井上ひさし作、東憲司演出、こまつ座公演「イヌの仇討」です。2月9日の金沢公演を皮切りに金沢~富山各地を巡ります。その見所などを,金沢市民劇場「このゆびとまれ」1月号の記事などを中心にご紹介しましょう。

■どんな作品
時代の真実は虚偽と嘘だらけ。果たして,吉良上野介は本当に悪者だったのか、赤穂浪士は本当に義士なのか、忠臣蔵は本当に美談なのか・・・歴史のからくりと人間のドラマ、現代(いま)を鋭く見つめる井上戯曲の神髄が東憲司の手によって再び!


■ものがたり
時は元禄15年(1702)、12月15日の七つ時分。有明の月も凍る寒空を、裂帛の気合、不気味な悲鳴、そして刀に刀のぶつかる鋭い金属音が駆け抜ける。大石内蔵助以下赤穂の家来衆が、ついに吉良邸に討ち入った。狙う敵はただ一人。吉良上野介義央。

ところが、やっとの思いでたどり着いた上野介の御寝間はもぬけの殻だった。上野介は、綱吉より拝領した「お犬様」、家来、側室(お吟)、御女中(お三)たちとお勝手台所の物置の中に逃げ込んでいた。

赤穂の家来が邸内を二時間にわたって三度も、家探ししていた間、身を潜めていたというあの物置で、彼らの心に何が起こったのか。

討ち入りから318年、歴史の死角の中で眠っていた物語が今、明かされる。

■キャスト
吉良上野介 大谷亮介
「劇団壱組印」座長 篠井英介らと「三軒茶屋婦人会」の女形ユニット公演やTV「相棒」等で名バイプレーヤーとして活躍中

お三(女中頭) 西山水木
舞台を中心に、作・演出・振付も。海外公演でも高い評価を得る。読売演劇大賞優秀女優賞受賞
※ 当初、三田和代さんが出演予定でしたが、体調不良のためにやむなく降板することになりました。

お吟(妾) 彩吹真央
元宝塚スター。男役として25年活躍。その後は様々なジャンルに。

お犬様 
初演はラジコンでしたが、今回はパペット(指人形や操り人形)。温かみのある生っぽい犬にしたかったんです(演出:東さん)

■出演者からのメッセージ
大谷亮平
世の中のほとんどの人々がこうだと信じさせられていることを、人生最期の時まで命をかけて真実を探し、考え、戦い続けた人間たちの話です。その仲間たちと、そして観客の皆様と大切な時間が過ごせることを楽しみにして、稽古に励みます。

彩吹真央
物事を一方向からみるのではなく、色んな角度から見定め、相手の考えや立場を想像し理解しりょうとする愛情があれば、この世の争いはすべて無くなる。井上ひさし先生は「イヌの仇討」を通して、その想いを伝えたかったのだと思います。

■再演の感想から
場面転換の全くない、物置の中で繰り広げられるこの芝居は、登場人物一人ひとりの、或いは登場しないながら語られる人物それぞれの立場と心の揺れ、人情の機微が交雑する秀逸な舞台。「赤穂浪士」に描かれる吉良上野介の人物観を変える。必見

現代にも通じる感性と台詞で描かれる濃密な時間は圧巻。大石内蔵助をヒーローとして称えるか、それとも吉良上野介に同情するか・・・という二極的な視点を遙かに超えて、幕府とは何か、世間とは何かという大きな視点を観客に提示する舞台。吉良の視点で社会を俯瞰し、討ち入りの真相を推理小説さながらに暴く筋書きでありながら、登場人物を丹念に繊細に描き上げる素晴らしい脚本。

「お犬様」がかなり大事な部分を占めています。そして、その演技が達者

適材適所に選び抜かれたキャストが配置され、ほぼ全員が出ずっぱり。東憲司の演出は役者だけでなく、本そのものを生き生きとさせていた。ラストシーンも視覚効果を伴い、見ている側が舞台の中に引っ張りこまれるよう。中味が濃く、深く、見応えのある舞台だった。

■こまつ座代表、井上麻矢さんのお話を聞く会「イヌの仇討」舞台づくりウラ・オモテ
2019年12月17日に行われた「聞く劇場」の内容から

  • 「忠臣蔵」というのは赤穂側からみた言い方。上野介の出身地の愛知県西尾市の人たちは「赤穂事件」と言っている。
  • 「イヌの仇討」には、大石内蔵助も浅野内匠頭も出てきません。登場人物10人と綱吉から戴いたおお犬様一匹が炭小屋に入るところから物語はスタート。
  • 元禄時代は江戸時代中期で経済が安定したいた頃。今の時代と似ています(経済は上向きと言われていますが、災害が多かったり、消費税が上がったりでつくられた上向きともいわれる...)。
  • 「仇討ちと心中は江戸の発明」と言われている。
  • 腹を切るというのは、当時の武士にとって悪い死に方ではない。本当に吉良さんは悪者だったのか、仇討されなければならなかったのかを疑問視したのが「イヌの仇討」
  • 何か重要な物事が起きているときに、スケープゴートとして身代わりがでっち上げられる事件があるのではないか、と井上ひさしは「イヌの仇討」に込めたのではと思います。
  • 演出は東憲司さんという若い方。この芝居について「吉良上野介には吉良ならいの言い分や立場があったのではないか。赤穂浪士の仇討は本当に正しかったのかという井上先生のまっすぐな問いかけが目の前に迫ってくるように感じられました。会話とそれによる心理の変化だけでドラマを展開していきます。赤穂浪士の討ち入りに至る事件の経過とその後ろで無責任にうつろう民衆の関心や同情、幕府の意向までを見通し、当時の世相を分析している作品になっている。
  • 多面的な目を持つことの大切さがこのお芝居の一番の狙い。そのような視点を持つことが求められる時代になっていることを感じていただければ面白い観劇になると思います。


# 運営担当 オワリチョウサークルの神田さんがまとめられた記事の中から抜粋させて戴きました。