■作品について
- 寅さん映画の監督としておなじみの山田洋次さんの脚本による「新作歌舞伎」。
- 内容は,古典落語の「らくだ」と「井戸の茶碗」を合体させた,前進座を念頭に置いて書かれた「長屋物もの」
◎ものがたり
紙屑屋の久六は,裏長屋の浪人 朴斎とその娘お文に懇願されて,古い仏像を買い付けます。この仏像を蔵屋敷の若侍作左衛門に売ったところ,仏像の腹の中から出てきたのは大金五十両!ところが,朴斎も作左衛門も,自分の金でないから受け取れないと言い張り,五十両を持たされた久六は,行ったり来たりで,良心の大ピンチ
一方,同じ長屋の鼻つまみ者,らくだの馬は,魚屋からまきあげたフグにあたって死んでしまいます。兄貴分の半次は,馬の弔いのためと,久六を巻き込み大家の家に乗り込んで,目を覆う大騒ぎ。そんなある日,作左衛門は藩主・綱正に呼び出され...
◎知っておくとよい情報
- らくだ・・・役打立たずの大きい物につけたあだ名
- 井戸の茶碗・・・茶の世界では,「一井戸,二楽,三唐津」というくらいステータスのああるもの。韓国由来の飯茶碗で,利休なども価値を置いたよう。
- 狂言まわし・・・全体の話を進めるのは正直が取り柄の紙屑屋,久し六。
- 歌舞伎・・・新作でも歌舞伎。赤緑黒の三色幕を使用。鳴り物は舞台下手の御簾内。太鼓・鉦などにぎにぎしいお囃子が聞こえてきます
■山田洋次監督インタビュー
◎作品に込めた思いは?
「儒教の道徳観に窮屈に縛られた侍と,お天道様が見ている,という先祖から伝わるモラルで生きる庶民。同じ人間でありながら,階級が違うと,物の考え方も感じ方も違うということをくっきりさせたいと思いました。
◎喜劇ですが死を大胆に扱いますね
「らくだ」はとてもナンセンスな物語。死骸には手を合わせるという日本人の伝統的なモラルをひっくり返す,けしからん話です。これを本当にあったことのように物語り,倒錯して異常な価値観の世界に観客を引き込まないと,芝居は面白くなりません。
◎子どもの頃から落語好きだったそうですね。人間国宝の先代柳家小さんにんも新作落語を提供しています。
人間の欠点を楽しく表現するのが落語の芸。喜劇もそうです。欠点を面白がりながら温かく表現する。観客はそれを見て大笑いし,人ごとじゃないなど身につまされる。落語があったから僕の映画,特に「寅さん」はあると思っています。
◎常に底辺の人に温かいまなざしを向けてきました。
落語は貧しさも笑いにする。「おまえ,貧乏だな」」とお互い悪口を言いながらゲラゲラ笑うっていうのかな。今は,そういうことでは笑わなくなってきている。それじゃあ,将来の憂いなく安心して暮らしていける世の中なのか。全くそうじゃない...
■前進座俳優・忠村臣弥さんによる「聞く劇場」(6月13日)の内容から
◎歌舞伎のお話
- はじまりは400年ぐらい前の「出雲のお国」
- 内容面では,武士の義理や斬った張ったを描く「時代物(荒事)」と庶民の生活を描く「世話物(和物)」に分けられる。
- 最近では「ワンピース」も歌舞伎化されている。
◎前進座のお話
- 明治生まれの河原崎長十郎や中村勘右衛門が,トップの役者だけ人気があって給料が良いという,従来の歌舞伎の世界に疑問を持ち,独立を決める。
- 1931年に前進座を創立。小山内薫などが作った築地小劇場の前身。命名は村山知義。
- 戦争中も班に分かれて全国巡演。いちばんひどい時は松本に疎開。
- 戦後,映画にも出るようになり金銭面で余裕ができ,1987年に,吉祥寺に稽古場のついた劇場を作る。
- 養成所の時は授業料をこちらが払うが,テストに受かって研修生になると給料が支払われる
- 今年で88周年。これも全国の鑑賞団体のおかげ。
◎忠村臣弥さんのこと
- 歌舞伎とは縁のない九州出身です。
- 高校時代は演劇部に在籍。顧問の先生が鑑賞会の会員で,いろいろな芝居を観る機会があった。
- 卒業後,どこか入団テストを受けようと相談したら,「文学座とか,俳優座は受からないだろう,前進座なら...」と言われ,今日に至っております。
- いい役をもらっています。金沢市民劇場でも上演された「山椒大夫」で厨子王役でした。
- 今回は,若侍役。意外や意外ラブロマンスが...。
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